よく「聞こえにくいと転びやすくなるのでしょうか?」とお問い合わせをいただくのですが、最近のアメリカでの臨床ケースを入手しましたので、情報として参考にしていただけたらと思います。
まず、良く知られている転倒の原因として、放置されている難聴があります。
難聴は複数の研究において転倒リスクの大幅な増加と関連づけられています。
例えば軽度難聴の人は、健聴の人に比べ転倒した経験が3倍近く多く、難聴が10dB進むごとに転倒のリスクは1.4倍増加します。つまり、難聴が進行すればするほど、転倒するリスクも高くなっていきます。
転倒は怪我や入院に繋がります。アメリカでは65歳以上の3人に一人が毎年転倒しており、転倒によって致命的もしくは多くの怪我を負っているとのデータがあります。
では、なぜ難聴になると転倒のリスクが高くなるのでしょうか。
以下の理由が考えられます。
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聴覚情報によるバランス感覚の維持:
- 私たちは、周囲の音を聞きながら体のバランスを保っています。
- 音は、自分がどこにいるのか、どのように動いているのかといった情報を提供し、脳が体の位置や動きを正確に把握する上で重要な役割を果たしています。
- 難聴になると、この聴覚情報が不足するため、バランス感覚が不安定になり、転倒のリスクが高まります。
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脳への負担増大:
- 音が聞こえにくい状況では、脳は周囲の音を聞き取ろうと常に働いています。
- このように脳が聴覚に多くのエネルギーを費やすことで、バランスや歩行を司る部分へのリソースが減り、転倒につながりやすくなります。
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障害物への気づきにくさ:
- 足元の段差や障害物に気付きにくくなるため、つまずいたりぶつかったりする可能性が高まります。
- 特に、騒がしい場所や音が反響しやすい場所では、この傾向が強くなります。
そもそも、高齢者は転倒する危険性が高いです。高齢者の「不慮の事故」のうち、「転倒・転落」によるものは毎年多く発生しています。
また、高齢者が転倒した場合、「痛かった」だけではすまないことが多々あります。転倒・転落は骨折や頭部外傷などの重大な傷害を招き、これが原因で介護が必要な状態になることもあります。
このように、転倒には大きな危険が伴います。転倒のリスクを少しでも下げるために、聞こえづらさを感じている場合は早めに対処するようにしましょう。
例えば補聴器を使うと、小さな音が聞こえるようになり、音の方向感覚も改善します。人が近づいてくる音が聞こえますし、ぶつかったりつまずいたりして転倒することが減るでしょう。聞こえを改善することで、難聴によって起こる脳の過剰な負担も防くことができます。
以上のことから、転倒のリスクを減らす為にも難聴の方は補聴器の装用が望ましいと言えるのではないでしょうか。